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【連載】ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第15回)


2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから昨年デビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。


【第十五章】―Solar Way―

18歳の夏。

少し遅めの卒業式を終えた僕は、約1か月ほどの短い滞在を終えテキサスに戻った。昨年と同じダラスの空港に降り立ったものの、向かう先はそこから少し北にあるデントンという田舎町だった。一体そんなところに何の用があるのかというと、ノーステキサス大学(以下UNT)というアメリカ屈指のジャズ科のある総合大学がそこに存在していたのだ。「ジャズを勉強するならUNTでしょ、あのノラ・ジョーンズも行ってたしね」と、ダラスのジャズ好きの人たちは皆そう言った。それに習い僕もUNTで勉強してみようと思ったのだ。ただ、総合大学だけあり、TOEFLと呼ばれる英語力のテストの必要スコアがかなり高く、ちゃんと入学するのも難しい。そして入学するのも大変だが、何よりジャズ科に合格するのもまた至難の業であった。まだまだ英語力も足りずジャズの経験も皆無の僕は、まずUNTに付属しているESLのコースを取ることにしたのであった。

デントンに到着し、一時帰国前に既に契約を済ませておいた部屋に入居した。この部屋を探すのに実はとても苦労したのであった。新聞に載っている賃貸広告の中からいくつも電話を掛けてみたのだが、たくさん質問しているうちに相手が面倒くさくなり一方的に切られることがほとんど。部屋を見つけるどころか、欲しい情報を手に入れることさえも困難に感じた。特にホスト・ファミリーと仲が良くなかったので、彼らの助けを借りることなくめげずに自分でとにかく電話を掛けまくった。そんな中、アパートでは無く一軒家の1階を借家にした個人の広告を見つけた。ジムという優しそうな声をしたお爺さんが電話に出て、拙い僕の英語の話を真摯に聞いてくれた。「ルームメイトが3人いる家で、一人は新聞社に勤めてる日本人の写真家だよ。安心して住めると思う」と説明してくれ、部屋を直接見る時間は無かったのだが、時間も迫っていたしその場で契約することにしたのだ。その後、日本人に頼ることが「何よりもかっこ悪い」と尖りまくっていた僕は、ルームメイトの方とほとんど話すことなく過ごした。その代わりと言ってはなんだが、大家のジムにはめちゃめちゃお世話になり、免許証を取得する時や、中古車を購入するときまで、本当に何度も何度も手を差し伸べてくれ、大家という存在を遥かに超えていた。


大家のジムと

中古車を買う前は、全部自転車移動だった。当時、テキサスは公共交通機関が少なく(ダラスは公共交通機関が無い主要都市の中で一番大きな都市とされていたほど)、車がないとほぼ生活できないと言われており、またそのテキサスの中でもド田舎に住んでいた僕は移動手段に相当苦労した。毎日自転車で坂を登り学校まで行き、汗だくで授業を受け、雨が降ればびしょ濡れになり、片道30分近く掛かるスーパーに行くが荷物を持って走れず転んだり、今思い出してもとても辛かった記憶しか無い。でも元々英語が好きだったからESLの授業は好きだったし、論文を書く楽しさをそこで覚え、試験などで即興で書かなければいけない論文で満点を取ったり、勉強に関しては充実していたし、文法もそこでほぼ完璧になった。それに、移動は大変だったけど、広大な緑と青空に囲まれたこの田舎町はとても気持ちよく気に入っていた。住んでいたSolar Wayを自転車で駆け抜ける爽快感はニュージーランドにいた時と同じ感覚だった。あの光景は今でも簡単に思い出せる。ジムとの連絡手段も無くなってしまったが、今も元気で過ごしているだろうか。彼の優しい声と眼が記憶の中で蘇る。

そうやってUNTに毎日通い、メキメキ英語力を上げていった。でも僕の求めていたものはやっぱり音楽だった。ドラムを演奏する場所は無かったけど、音楽科の練習室に忍び込み夜な夜なピアノを弾いて、少しでも音楽に触れようとしていた。一度UNTの教授に「ドラムを教えてほしい」とメールをしたりしたが、やはり「教えてほしければちゃんと入学してからじゃないと無理だ」と言われあえなく諦めるしかなかった。家に帰っても練習パッドを使うと音が大きいしルームメイトにも迷惑が掛かるから練習もできず、結局テレビで映画やドラマを観て英語の勉強をしていた。

そしてデントンに移りしばらく経った時、Arts時代から付き合っていた彼女と別れることになった。一つ年下でまだダラスでArtsに通う彼女と僕の住んでいるデントン、車も無い当時の感覚では十分遠距離で、それもありこれ以上関係を続けることが難しくなったのだ。その時ばっかりは、日本人のルームメイトに話しかけ、ビールとタバコをもらい、恋愛相談に乗ってもらった。

彼女との別れから毎日の気持ちがとても暗くなった。
そして、ここから負の連鎖がどんどんと始まっていったのであった。

※記事中の写真は本人提供

(次回更新は9月23日の予定です)


第十四章はこちら
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第一章~第十章のまとめ読みはこちら
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■最新情報
伊藤ゴロー、佐藤浩一との新ユニット
「land & quiet」のデビュー・アルバムがリリース。
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