ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第24回)
2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから昨年デビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。
【第二十四章】―転校―
Dunn Brothersでの演奏を始めたことをきっかけに、僕の活動の幅はどんどんと広がっていった。カフェだけでなく、それなりに名の知れたジャズ・クラブでも演奏させてもらったり、また、学校を通してジャズ・フェスティバルに参加したりメキシコに遠征で行ったり、とても充実した音楽生活であった。
メキシコ遠征時
そうやって自分自身の音楽レベルが少し上がったことで、Brookhaven Collegeで最初に入ったLab Bandに違和感を覚え始めた。他の生徒はジャズ・ミュージシャンを目指す人ばかりとは限らないし、演奏していて物足りなくなってきたのだ。もちろん僕が初心者の時はとても有意義な時間を過ごさせてもらったし、それはとても有難いことだったが、自分の居場所はもうここじゃない、と感じ始めた。更に、そのLab Bandを受け持つRoyの教え方にも不信感を抱くようになった。クラシックのサックス奏者ということもあり、ジャズにはあまり精通しておらず、いつの間にかその知識は僕の方が上になっていた。彼の言う言葉に説得力がなくなってしまったのだ。またそれだけでなく、彼は少し楽器間で差別をしていた。自身がサックスを演奏するから、もちろんサックス奏者は優遇され、リズム・セクションはいつも後回になっていたし、あまり気にもかけてくれなかった。そして最終的に、僕はそのLab Bandの授業を取らなくなった。Royには「腕のいいドラマーが必要だから残ってほしい」と言われたが、もはやそんな言葉は僕には響かなかった。
Lab Bandを辞めたけれど、Keithのことはとても信頼していたし、水曜日の夜のビッグバンドは続けていた。ヴォーカルジャズコのアンサンブルも楽しかったし、先生とも仲良くやっていた。ただやっぱり、僕はそろそろ次のステップに行かないといけないと感じ、更に上のレベルを目指したいと思った。そしてそのために、学校を変えよう、そう決断した。
ダラス、そしてその隣にあるフォートワースの二都市を含めたGreater Dallas(ダラス・フォートワース・アーリントン大都市統計地域)。その中には数々の大学があり、元々目指していたデントンにあるUniversity of North Texas(UNT)ももちろんその中に含まれる。だがしかし、ジャズを学ぶにつれ、UNTに入学したいという希望は薄れていった。UNTはビッグバンドでとても有名な学校で、9つあるビッグバンドの中のトップにあたるOne O’Clock Lab Bandはグラミー賞に何度もノミネートされるほどのレベルで、著名なジャズ・ミュージシャンをたくさん輩出している。そういう伝統のある学校なので、ビッグバンドよりもコンボ志向だった当時の僕は、UNTを目指すことを諦め、別の場所を探し始めた。
そうやって探している中、何度も耳にする人の名前があった。Tim Ishii、UNTのOne O’Clock Lab Band出身のサックス奏者だ。彼は演奏家としてだけでなく、指導者としても名が知られていた。実は、学校を変える決断をする少し前に、フォートワースの方にある大学のビッグバンドを見学しに行ったことがある。その時に流れでドラムのオーディションも受けてみたのだが、その時のジャズ科のトップがそのTim Ishiiだったのだ。日系アメリカ人の二世ということもあり、日本語は喋れないが親しくしてくれた。そしてそのTimが、その大学からUniversity of Texas at Arlington(UTA)のジャズ科のトップになるという連絡が入った。以前の大学は、少し田舎にあり、名前もそれほど知られていなかったので、Timにとっては栄転だったし、UTAのジャズ科にとっても良い流れであった。
もともとKeithもUTAを勧めていたし、Timがディレクションをするのであればきっと素晴らしいジャズ科になるに違いない、そう思った。ニューヨークやロサンゼルスみたいな大きな街に行き腕試しをしたいな、とも思ったこともあったが、やはり自分のレベルはまだそこまで行き着いてはいない、そう判断した。それに、ニューヨークへと偵察に行ったのだが、あの街はどうにも好きになれなかったし、僕には全く合わない場所だと感じてしまった。そして僕は遂にUTAのオーディションを受ける覚悟を決めた。
NYでの一息
※記事中の写真は本人提供
(次回更新は2月3日の予定です)
第二十三章はこちら
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第一章~第十五章のまとめ読みはこちら
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■最新情報
伊藤ゴロー、佐藤浩一との新ユニット
「land & quiet」のデビュー・アルバムがリリース。
『land & quiet』
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■Discography
Shinya Fukumori Trio
『フォー・トゥー・アキズ』
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